(初出:2016年11月@Google+)
単行本の形で最初に出てからもう10年以上経ってしまった本ではあるが、運良く近くの図書館の日本語図書コーナーで借りることができた。
今、この年齢でこの本を読めて良かった、と思う。心の底から。
山田 昌弘
筑摩書房
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高度成長時代の「右上がり」しか知らなかった親世代の物の見方にまんまと乗せられ、「いい学校へ」「上のレベルへ」と馬車馬のように追い立てられていた、昔の自分。
折りしも、時代はバブル景気真っ盛り。
冷静に考えている暇なんて無かった。
ただ目の前の人参を追っかける馬のように、ひたすら前へ前へと突き進めばそれでいい、と思っていた。
「上のレベルへ行けば、きっといいこと待っている。」 「上のレベルへ行けば、こんな自分でも少しは箔が付くかも。」
自分の外にある「上へ!」というゴール目がけて一目散に走ってはみた。
でも、それはあまりにも低すぎる自尊感情をごまかして、外面だけいいカッコしてみたかったから。
女にもてたいから高給取りになりたい。
自分を振った元彼を見返したいから、売れっ子芸能人になりたい。
そういう人々と根っこ部分では何ら変わらない発想をしていた、あの頃の自分。
自分本体の値打ちで勝負できない奴がすぐ飛びつく、安易な解決法に走っただけなんだ。
「虎の威を借る狐」的な、その場しのぎの浅はかな解決法に。
あー、はずかし。
山田昌弘・東京学芸大学教授のこの本を読んでようやくあの頃の自分の異常性に気付くことができた。
若い頃から2012年頃までの自分って、「希望教」という名前の、全然ご利益など期待できないようなインチキ新興宗教にどっぷりはまった、しょーもない奴だった。
現実認識能力がゼロどころか、マイナスへと落ち込んでいたと思うな。
やみくもに「上へ!」って唱えながら進んで行けば、何とかなる、道は開ける...。
そのように40過ぎまで信じ込んでたんだから、まったくもう、どーしよーもない。
そんなおめでたい中身の私が、「引き寄せの法則」に出会うやいなや、これまたどっぷりはまってしまったのも、当然と言えば当然であった。
「希望教」信者の目の前に差し出したら絶対食らいついてきて、骨までしゃぶり尽くすでしょー、っていう感じの文面であふれてるからね、あの手の本は。
「望みは全部叶います!」 「宇宙は私の豊かさを望んでいます!」
と、景気いいことばっか連発。そんな言葉を真に受けて、人生しくじったとしても、著者は知らんぷり。責任なんか取ってくれるわけがない。
山田教授が本書の最後に書いていること、自分なりにまとめたらこんな感じになるだろうか。
「希望を持つことは、確かに大切。 だが、かなわなかった、あるいは、どう頑張ってもかないそうにもない希望というものが世の中にはゴマンとある。 その場合、適当な時期やタイミングを見計らって、上手に、きれいさっぱりと後腐れなく諦めさせるために、第三者が介入することが時として役に立つ。
『夢を追え!』 『希望を持て!』
といった威勢の良い煽り文句ばかり強調する社会では、落伍者となった人々はいたたまれない気持ちで生きなければならない。 しかも、今の日本では、夢も希望もはじけてしまったような人々の方が数としては断然多くなってしまっている。 そうした人々、特に若い人々を放置していては、日本社会はますます停滞していくのではないか。
欧米のように『叶えられなかった希望を上手に諦められる』ような手助けを受けられる体制を整えることが急務である。
求職者たちが、これまでに体験した失敗、挫折といった負の経験とうまく折り合いをつけられるよう、カウンセリングや進路相談といったサービスをもっと充実させることが望ましい。 そうして支えられることで、人は自分の才能や限界、また、現実の姿を冷静に観察・分析できるようになり、『じゃぁ、この条件で自分は一体何ができるだろうか』と自分に問いかけられるようになる。」
ここまで読んでちょっと自分の中の古傷がうずいたな、と感じられた方。
「希望格差社会」、強くおススメします。
自分の中でもやもやしていたものが、山田教授のような専門家の筆致によってバッサバッサと鮮やかに斬られ、正体が明るみになっていく様子を目の当たりにすることで、過去と訣別し、明日へと向かっての力強い一歩を踏み出せるかもしれませんよ。
まぁ、山田先生の上のお説とは若干矛盾しますが、元はと言えば格差社会は西側の先進国、ガッチガチの階級社会を何百年もの間続けているヨーロッパの国々に端を発していますからね。
一世代や二世代で簡単に解決するのなんて無理無理、って言う程に根が深いんです。
VIDEO
このマンガ(ちゃんと日本語訳が付いてます(^^♪)、しばらく前からFacebookでよく目にする。
その度についつい読み返してしまうのだけれど、なかなかうまくできている。作者はニュージーランドの方らしい。
画面右側の若い女性・ポーラにこの先、明るい未来は訪れそうにも無いだろうな...、という夢も希望も何も無いところまで、巧みに描けている、と思う。
ポーラは何も悪いことしたわけじゃないし、与えられた状況の中で一所懸命に生きてきただけなのに、ね...。
楽天的なヴィジョンを持つのはいいこと。
でも、それが叶わなかった時には助けを求める、セルフケアすることで自分の未来をさらなる落ち込みから守る。
そういう視点を自分の中のどこかに持っておくことが大事です。
さて、ブッダの言葉でも読むかな...。
【無駄に期待・希望を与えない】という意味では、釈尊がこの人間世界熟知されている最高レベルのマスターのおひとりであることだけは間違いないよね。
仏教伝道協会
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「...何ごとも心がもとである。心が世の中のことを楽しめば、迷いと苦しみが生まれ、心が道を好めば、さとりと楽しみが生まれる。」
(「和英対照仏教聖典」p. 327)
「こういう自分にならなきゃいけない」という心。
「〇〇学校を出たからには、このくらいの身分にはならないといけない」という心。
全く、釈尊のおっしゃる通りですよ。
歪んだ心の指令に盲目的に操られるような生き方したって、ロクなことはない。ホント。